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髪を切った。
いつもより短めに切ってもらった。
だが何が変わるという訳でもなく
日々のルーティンワークで命を削っていく。

いつだったか、彼女と喧嘩した時だ。
彼女は混乱して叫んでいた。
僕はそれを見ながら酷く静かな気持ちだった。
僕にとっては主観ではなく客観で
冷めた気持ちはいつまでも引く事はなさそうだった。
「心奪われる」というのが心のバランスを保てなくなる事ならば
彼女は僕の心を崩すことが出来なかったのだろう。

いつだったか、喧騒の中を歩いていた時だ。
肩が当たったというつまらない理由で
一目見て馬鹿だと判る男が殴りかかってきた。
痛いのは嫌いなので、軽く身を傾けた。
屑はよろめいた。
また殴りかかってきた。
蝿の様にうざったかったので、軽く叩いてみた。
屑は動かなくなった。
「人はゴキブリの様だ」と形容した奴は
恐らくそいつが脆すぎただけなのだろう。

いつだったか、全てを面倒に思っていた時だ。
事故に遭った。
生きる事に執着はなかったが
僕の人生という物の儚さを改めて知った。
事故の傷が致命的な傷なのかそうでないのかは関係なく
僕が生きる事も、死ぬ事も
生きている事も、死にかけている事も
全ては偶然なのだと思った。
「運命」という言葉は人の生を左右するというが
全てがどうでも良くなった人間には効力がないのだと初めて知った。

その事故で運ばれた病院で養生していた時だ。
いつかの彼女が見舞いに来た。
しっかりと別れた訳でもなく、連絡だけが途絶えていた。
額に残った傷を見て、彼女は泣いていた。
あれ程僕の事を嫌いだと言っていたのに。
僕は彼女の涙を見て、まだ僕の為に流れる涙があるのかと顔が引きつった。
「誰かの為に」なんて言葉は信じていない。
だが僕は確かに
確かに彼女の涙で面倒くさい事をして行こうと決めた。

髪を伸ばした。
襟足を、もみあげを
前髪を。
傷は消えない。
消したくない。
ルーティンワークで削っていた命を取り戻す様に
僕は日々を生きていき、生かされていく。
いつか偶然に死ぬかも知れない。
死が二人の袂を分つまで
僕は彼女の涙を取り戻す為に生きるだろう。
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